クリニカルイラストについて

「クリニカルイラスト」は、小児がんとたたかう子どもたちの「自分の体に何が起こっているのか知りたい」気持ちと、子どもたちを支える医療職の「分かりやすく、やさしく伝えたい」気持ちをつなぐ視覚的な医療デザイン素材を提供することで、説明資料作成を推進できるかを明らかにするために開設されたサイトです。(2025年8月28日公開)。

「クリニカルイラスト-Clinical Illustration」とは
 本研究において定義した言葉であり、臨床の現場で患者や家族に医療情報を分かりやすく伝えるために用いる視覚的な医療デザイン素材を指します。

Webサイト運営:岩藤百香(京都橘大学 客員研究員:researchmap
本研究はJSPS科研費19K02634の助成を受けました。

視覚的な医療デザイン素材の開発チーム

公開する素材は、デザイン×医療の多職種連携により開発されています。

研究代表者:全体総括・ディレクション・説明ブックのデザイン・webサイトの運営
岩藤 百香(専門:コミュニケーションデザイン)京都橘大学 工学部 客員研究員
医療情報としての正確性の担保:医療監修・素材の使いやすさについてのフィードバック
住吉 智子(専門:小児看護)新潟大学 医学部 保健学科 看護学専攻小児看護学 教授
井上 清香(専門:小児看護)川崎医療福祉大学 保健看護学部 保健看護学科 講師
医療職のニーズの収集:先進事例のインタビュー調査・データ分析
松本 正富 (専門:医療福祉住環境)京都橘大学 工学部 建築デザイン学科 教授
ダウンロードシステムの検討:webサイトの使いやすさについての監修・フィードバック
大姶良 義将 (専門:感性デザイン)川崎医療福祉大学 医療技術学部 臨床工学科 講師
イラスト素材の制作:多数のイラストにおけるクオリティの担保
渡邉 美里 (医療イラストの制作実績)うさみみデザイン イラストレーター/デザイナー

研究の背景と目的

 小児患者の治療においては、従来、子どもは理解力が不十分であり、親権者に付随する存在であるとの認識から、本人への説明や意思確認は軽視される傾向にありました。しかし近年、発達途上にある7~14歳の小児に対しても、分かりやすい説明と法的規制を受けない本人の了承(賛意)を求めるインフォームド・アセント(Informed assent)の重要性が指摘されています。

インフォームド・アセント

 小児患児に対しては、言葉のみでの説明が難しいことから、絵本やおもちゃの模型、ぬいぐるみなどが広く活用されています。しかし、そのための説明資料や補助ツールの整備は、各医療機関の自主的な取り組みに委ねられてきました。

 私たちは、先行研究(研究代表の科研課題番号:19K02634 小児患者へのインフォームド・アセントに有効な視覚的デザインを用いた情報伝達の研究)において、小児がんという重篤な疾患の治療に取り組む全国197病院の看護師を対象に、インフォームド・アセント用説明資料の作成状況を調査しました。
 その結果、患児向けの資料を作成している病院は2割に留まり、7割の病院が必要性を感じつつ資料を作成していない課題が明らかになりました。資料を作成できない理由としては「業務と並行して患児に伝わりやすいイラストを作成する時間的困難さ」「作成スキルを持つスタッフの不足」などが挙げられ、看護師が資料の準備に負担を感じている現状が示されました(註1)。
 一方で、成人を対象としたインフォームド・コンセントにおいても、「内容を理解できそうだ」という期待感に、イラストや色使い・文字の強弱など視覚的デザイン要素が有効であることを明らかにしました(註2)。

 看護師が説明資料を作成する際は、院内のパソコンでオフィスソフトを用いてレイアウトを行い、インターネットで著作権フリーのイラスト素材を探して挿入する場合が多いとされています。しかし、専門的な内容を子供向けのタッチで描いたイラスト素材は限られており、足りない素材の補填が看護師の準備負担に繋がっていると考えられました。
 そこで本研究では、医療用デザイン素材(イラストや資料レイアウトのひな型)を広く共有するシステムは看護師の資料作成を推進するかを明らかにすることを目的としています。

註1)岩藤ら:小児がん患者向けインフォームド・アセント資料の導入実態とデザインに関する一考察,    
       デザイン学研究,68 (4), p.65-70, 2022

註2)岩藤ら患者向け治験説明文書の改善に向けたビジュアルデザインの要件   
       デザイン学研究,67 (3), p.57-64, 2021

イラスト素材開発のながれ

 複数のデザイン学の専門家・複数の小児看護学の専門家・医療イラストの制作経験が豊富なイラストレーターにより、5つのデザイン要件を設定し、以下の流れでイラスト素材や説明資料のひな型を開発しています。

【5つのデザイン要件】
①患児が親しみやすいと感じるやわらかい線と
 色を用い、デフォルメされたタッチで描く
②中性的な見た目の小児とし、体の構造等以外
 は男女どちらも自分に関わることだと
 イメージできるようにする
③医療器具や体を固定する看護師の人数・
 体制などを現実に即した内容で描く
④複数の専門家による医療監修を受けて
 正確に描画する
⑤出典を明確にするため、各イラストに
 コピーライト表記をつける

イラスト開発のながれ

目指すこと

 本研究では、医療監修を受けた視覚的な医療デザイン素材をサイトで無料公開することにより、小児患者本人への医療説明の実施率向上に資することを目指しています。
 インフォームド・アセントにおける合理的な医療説明の確立を通じて、子どもであっても“知る権利を持つひとりの人間”として自身の病気を理解し、前向きな治療へ一歩踏み出す契機となることや、家族みんなで病気に立ち向かう協働的な関係性の構築に寄与できることを期待しています。
 さらに、小児患者にも分かりやすい医療デザイン素材は、情報理解にバリアを持つ障がいのある方々への情報伝達にも応用可能であり、医療福祉分野への貢献が期待できると考えています。

 (素材があれば資料を作成できるかもしれない」と一人でも多くの医療従事者に感じていただけるよう、今後も素材の充実とWebサイトの利便性向上に努めてまいります。皆様からのご意見やご提案もぜひお寄せください。